日本で初めて麹を使い日本酒を造ったとされる、酒のふるさと播磨(兵庫県姫路市)。また、酒米の王様「山田錦」発祥の地でもあります。播州地方は古くから酒造りが盛んな土地で、「大和の国に酒造りをもたらしたのは、播州杜氏だ」との言い伝えもあるほどです。元禄時代より播州杜氏の総取締役として、灘へ赴いていた本田家は、大正10年(1921年)に念願の酒造業を始めます。
本田商店では特A地区と呼ばれる厳選された地域で作られた山田錦から生む日本酒造りにこだわってきました。他の酒米と比べて一回りほど粒が大きい山田錦を使うことで、甘さと辛さのバランスがとれた米の味に厚みのある酒を生み出しています。 「本田商店」第5代目であり、専務取締役の本田龍祐さんにお話をうかがいました。
本田商店では2020年に定期配送サービスを開始しました。会員になると月額5,500円で厳選の日本酒2本セットが毎月届くというもので、定期配送自体、日本酒の酒蔵ではまだあまり行われていません。始めた理由の一つは、本田商店の酒造りにおける米、特に「兵庫県産山田錦」への想い、哲学をお客さんに知ってもらうためでもあると言います。
「兵庫県産山田錦」が別格とされる理由のひとつに、テロワールの考え方があります。 気候、水、地質など好条件が揃う場所だから良い米が生まれる、というのは何となくは理解できますが、説得力に欠ける気もします。そうであれば、多くの人が気候や水質に着目しそれであれば分かるようにしましょう、と本田商店では土壌調査に乗り出しました。
現在本田商店では「社(やしろ)」「東条」「吉川(よかわ)」の3つの特A地区の田んぼを契約しています。それぞれの土壌を調査することにより、土壌が経てきた歴史や成分が酒の味わいにも繋がっていることを解明したのです。例えば、社地区は大きな川から派生した土地、東条地区は沼地で柔らかい土地、吉川地区は最も山深いところにあり栄養分が豊富にあります。その結果として各地区でできた酒にもその土地の特性をそのまま表すような味わいが生まれるのです。
ブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村にあるロマネ・コンティのワインが最高峰とされるのは世界中の人がその場所を取り巻くあらゆる環境が複合的にワインに影響し、価値を向上させていると理解しているからです。本田商店が目指すのはずばり「日本のロマネ・コンティ」。 「誰かがやらないと日本酒の価値はいつまでたっても変わらない」
挑戦を続ける本田商店が、創業100年目の柱として掲げるのが熟成酒です。「龍力 熟成古酒 玄妙」は今春、フランスで開催されたワインコンクールの日本酒熟成酒部門に初出品し、いきなり金賞を受賞しました。米の味わいがしっかりしている酒だからこそ熟成にも耐えうる味となります。
日本酒は原材料や手間を考えても、ワインと比べて価格が低いと言われています。原材料の価値を知ることはすなわち、日本酒を理解することに繋がります。またヴィンテージ化して価値に見合うだけの味が出るのも、もとの原材料の力量があってこそ。「技術力は10年後に変わるが、素材は10年経っても生育環境を保てば変わらない」今後の日本酒の価値向上を担う本田商店に期待します。
本田商店
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