奈良県、奥大和と呼ばれる一帯にある宇陀市にて、2018年からクラフトビールの製造・販売をしている「奥大和ビール」。
“ BOTANICAL & HERBAL ”をテーマに15種類ものハーブやスパイス、地元の果物を原料にした個性豊かなクラフトビールを製造。かわいらしいロゴマークは「奥大和の“奥”」そして代表・ブリュワーの「米田義則さんの“米”」から着想されていますが、実際に奈良県産の古代米「神丹穂」を使用したビールもあったりと、ビールなのに「米」と言うキーワードに縁があるのも面白い「奥大和ビール」の魅力に迫ります。
Q創業の経緯を教えてください
17歳の時から東京で20年間音楽活動をしていましたが、家族ができ、子どもの成長に合わせて自然豊かな環境でのびのび育てたいと思ったのがきっかけで地元・宇陀に帰りました。ものづくりに興味があったのと、ビールが好きだった事もありクラフトビール造りを始めようと思いました。
Q奥大和ビールのコンセプトは何でしょうか?
『人と人、人とモノを繋ぐビール』自分が造ったものをきっかけとして、人やモノを繋ぐ架け橋のような存在でありたいと思っています。
これまでやってきた音楽づくりで、楽譜通りに作り上げて行くこと以上に、ジャズのセッションのようにその場で音楽が生まれていく感覚なんです。材料の組み合わせや作り手によって思ってもいなかった味が生まれた時が面白い。予期せぬ味や他には出せない良い味が出せたときの喜びもひとしおです。
Qなぜハーバルビールを選ばれたのですか?
元々ハーブやスパイスの勉強していてメディカルハーブ検定* を持っていました。
また、よく飲んでいたベルギービールはハーブを入れているものが多いことや、宇陀は飛鳥時代から続く薬草の街であり、地元のものを使いたいという想いも重なり使うことになりました。ハーバルビールはあまり日本では馴染みが無く前例も無いので、試行錯誤しながら造っています。 *メディカルハーブ検定:手に入りやすい15種類のハーブを題材に、メディカルハーブの安全性、有用性、使い方などハーブを楽しむために知っておきたい基礎知識を身につける検定
Qハーブの魅力はどんな所でしょうか?
一番はリラックス効果ですね。香りや飲み口でリラックスしてもらえると思います。また二日酔いになりにくいという話もあります。
お酒を飲む事は身体に悪いと言う印象もありますが、少しでも健康にお酒が飲めたら良いと思います。
1つのフレーバーに4、5種類のハーブを使っているのですが、どれかの香りが突出しすぎない様、ハーブティーの様に程よいバランスになることを狙っています。
Q地元の有機農家さんとのコラボビールを造りはじめたきっかけは?
この辺りは標高が高く寒暖差があるので、野菜作りが盛んでとても美味しく、オーガニックの生産者が多いと言う特徴があります。「野菜ビールがつくりたい」から製造が始まるのではなく、人との出会い・生産者さんの想いを聞いてから野菜とコラボレーションすることが多いです。
いつも関わってくれている方、よく顔が見えている生産者さんの野菜を使って、生産者の方々の想いを汲んで、人と人の繋がりから生まれるビールを作っていきたいと思っています。
有機農家“はじまり屋”とのコラボ企画も、元々は顔見知りでお酒を飲む仲間でした。にんじんをビールにしたらおもしろそうと話をしているうちにコラボすることになり、原材料の半分くらい人参を使ったビールが誕生しました。まるでにんじんジュース、朝から飲める様なビールに仕上がっています。
糖度が10%くらいある甘い人参を使っているのでその良さがビールに出ていますし、素材の人参自体の魅力を伝えるきっかけにもなっていると思います。
Q「TAP ROOM」、ゲストハウス付きの施設「TAP to BED」、「TAP STUDIO」も運営されていますね メインとなる「TAP ROOM」はビール醸造所に併設されたタップルームにて新鮮なビールを提供しているのですが、「道の駅 宇陀路大宇陀」の横にあり遠方から車で来られる方がほとんど。運転手の方がビールを飲めない状況になっていました。
周辺には観光できる場所も沢山あるし、飲んでそのまま泊まれるような施設があればと思い、昨年クラウドファウンディングにてプロジェクトを始動、大自然の中で泊まれるブリュワリー&ゲストハウス「TAP to BED」が誕生しました。満喫してもらうためにも2時間3,000円で飲み放題のプランも有ります。
もう一つの「TAP STUDIO」は学習塾跡をリノベーションして作りました。『大人の学び場』をコンセプトにして黒板や机と椅子を残しています。ビールのことを学んだり、朗読会、演奏も行っています。
今までにない新しいものをビールと掛け合わせて人を繋ぐ場づくりをしていきたいですね。
Q今後はどんな食材を使用したいと考えていますか?
通常廃棄されてしまうコーヒー豆の皮「カスカラ」を再利用出来ないかという話からコーヒービールが生まれそうです。
また、今までハーブ&スパイスの組み合わせはありましたが、スパイスのみは有りませんでした。お話を頂き共感できる部分があったので、現在アフリカのスパイスを使用したビール造りに取組んでいます。生産者さんから直接スパイスを仕入れる事で、少しでも売り上げに貢献し支援する事が出来たら嬉しいです。世界に目を向けて、生産者さんの顔・背景や生き様が見えるビールをもっと作っていきたいですね。
かつて古事記や日本書紀などの文献にも出て来たこの地は、近世では多くの街道が交わる土地として、時代の要衝として商人や旅客たちが交流し、旅の疲れを癒す宿場町として栄えました。
そんな場所で飲み手だけでなく、原材料の生産者の顔が見えるビールを造り、人の繋がりを大切にしている米田さん。生産者の想いが伝わるからこそ、味わいがより深くなります。「人と人とをつなぎ、人とモノをつなぐ」奥大和に根差したクラフトビールとして、世界とも繋がっていくでしょう。
【基本情報】
奥大和ビール
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