新潟県佐渡島の最高峰 金北山。花の百名山にも選出される山からは絶景を堪能することができます。この地に根差す天領盃酒造を2018年に加登仙一さんが個人で買収し史上最年少の24歳で社長に就任。日本酒に興味を持ち始めたきっかけは、大学2年次でのスイス留学だそう。
天領盃酒造で造られる「雅楽代」は恍惚となる柔らかい飲み心地にスッキリとした味わいが特徴。今回は本人に自身のキャリアや酒造りへの想いをお伺いしました。
Q. 加登さんは自身の留学経験を機に酒造りを学び始めたそうですね。そこから現在に至るまでの足跡や、天領盃酒造さんを選んだ理由をお聞かせください。
留学時の飲み会に参加した時に日本酒について尋ねられるも、興味が薄かったので何も言えなかったんです。すると、同席していた仲間から「君は自国への誇りが無いのか」と言葉を掛けられてしまいました。その言葉にムカッとして、帰国後は日本酒を学ぶようになりましたね。ただ、大学卒業後は酒蔵に就職することは考えていませんでした。経済の知識を蓄えるためにも、新卒として証券会社に就職しました。自分でお酒を作りたいという気持が強かったので、独立するしかないなと思っていました。調べるうちに、酒蔵を新設する免許が下りにくいことがわかったんです。そこから、既存の酒蔵を回ったり、M&Aで募集を呼びかけるところを探し始めました。
15社くらい候補に入れていたと思います。当時は酒蔵の在り方や設備の知識を持っていなかったので、唯一判断できる材料が各社の財務状況で。天領盃は改善できる余地がどこよりもあったので、ここを選びました。
Q. 初めて天領盃酒造さんのお酒を飲んだ時、酒蔵を引き継いだ時はどんな印象を持ちましたか?
お酒は正直言って土臭いと思ってしまいましたね。これが後に「オフフレーバー」と表現することを知りました。酒蔵を引き継いだ時は貯蔵環境の悪さに驚くこともありました。絞りの環境やタンク貯蔵が常温で保管されていたんです。瓶詰めした後も放置しっぱなし。そこで、設備の見直しやお酒造りに関しても抜本的な解決が必要だと判断しました。この際「若造だから言いにくい」など関係なく、経営者として進言することを決めました。 結果、酒蔵のメンバーも一新することになり、思いを同じくする3人のメンバーが揃いました。
Q. お酒の特徴を教えてください。
「天領盃」は普通酒から大吟醸まで幅広くラインナップしています。穏やかな口どけから華やかなものまで用意しています。次に「雅楽代」。これはほんのりとした香りで、701号酵母を使用しています。メロンのような吟醸香が出るのも特徴の1つですね。味わいは雑味がなくきれいです。アルコール度数も軽くて飲み心地の良い13度に設定しています。また、これにはお酒を飲む人たちにとって楽しい時間を演出する役割を持つような願いを込めています。私のスイスでの経験がきっかけで、このように考えるようになりましたね。あくまでもお酒は脇役であり、そこにあるだけで潤滑油になるみたいな。そのため、口どけも軽くしました。
Q. お酒に関して、「リブランディングした天領益のお酒をこの層に届けたい」など明確なターゲティングはありますか?
ターゲットを絞ることは創業半年でやめました。というのも、味覚に関しては年齢層は関係ないと考えているからなんです。歳をとってるから辛口など、全くないと思います。流行りものはSNSなどの媒体で、ターゲットを掴む必要があると捉えています。ただ、私たちはアプローチしたい層やそのままを好きだと思ってくれるファンを増やしたいし、お客様自身の楽しみ方をしてほしいと考えています。穏やかな酒質を目指して作っているため、飲む側も好きなようにアレンジできる。 お客さんやターゲット層を思って作ったのではなく、自分が飲みやすい、穏やかな酒質の酒を作ったら、結果的にお客さんに親しまれるお酒だったんですよね。
Q. 天領盃酒造さんには共通の目標を持つ方たちが集まってくるのでしょうか?
共通している部分は意外とないように思います。3人いるとすると、見るからに真面目なタイプと、真面目に対してはどちらかというとはっちゃけているタイプに分類できると。敢えて共通点を挙げるならば、 自主性が高く自分で学ぶ意欲が強い点だと思います。そのため、クリエイティブな考え方に長けている人も多いような印象を持っています。また、チャレンジを応援する環境づくりも意識しています。やりたいと自分たちから言ってくれるし、やりたいと言ったことはやってみてもらいます。もちろん責任感を持って取り組むことが前提ですが。
Q. 社内で意識していることは何でしょうか?
逆算して考える力を付けることです。現状から最終的にどうなるのかを考えることで、計画性や効率性が身に付いてくると思うんですね。 私は残業すると怒ります(笑)逆算できていない状態ですからね。自分の時間や休みを作ってもらうためにも、計画性や効率性は特に大切な要素だと考えています。
Q. 若い方が酒蔵を経営するというのは多くの若者にとって勇気が出るきっかけになったと思います。加登さんはどのようなお考えですか?
熱量があったからこそ、実現できたと思っています。酒造りに携わりたいのであれば、ぜひ蔵人になって欲しいです。また、単に経営者になったのではなく、冷静に財務状況を判断する力があってこそ経営に携わっていることも伝えたいうちの1つのことだと思いますね。
まさに温故知新の雰囲気が感じられる天領盃酒造。加登さん曰く、「お酒は人と人を繋ぐ世界共通のもの。日本酒はそんな世界文化の1つ」と。加登さんのような若い力をもとに、天領盃酒さんが今後どのように変身していくのか楽しみです。
【基本情報】
天領盃酒造株式会社
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