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常識を疑うことから始まる酒造り/土田酒造

季節によって表情豊かに見せる群馬県川場村・武尊山。日本百名山にも登録されている山の麓には1907年(明治40年)創業の土田酒造があります。仕込水は勿論武尊山の伏流水を使用しています。ここは、戦前に行われていた日本酒の品評会に連続で入賞した蔵にだけ与えられる「名誉賞」を獲得した蔵。添加物を一切加えない酒造りに切り替えたことでも有名です。代表銘柄は「誉国光(ほまれこっこう)」。2020年全国新酒鑑評会入賞 ・2019年酒-1グランプリ5位・ 関東信越国税局酒類鑑評会優秀賞を受賞するなど、輝かしい成績を手にした一品。スッキリとした味わいで、お米の旨味が身体に染み渡ります。今回は代表の土田さんにお話を伺いました。



Q. 土田さんは家業を継ぐまでに一度別の会社で働いていたそうですね。ご実家に戻るまでの経緯をお聞かせください。


私は4人兄弟の末っ子で、上には兄と姉2人がいました。そのため、実家を継ぐことは全く考えていませんでした。当時はお酒も飲めず、知っているお酒も大吟醸ほどのレベルだったんです。就職したのはゲーム制作会社だったのですが、入社し5年ほど経ったある時、仲間との飲み会で実家のお酒を提供するとお世辞抜きで絶賛されて。私としては「そんなに良いものなのか?」と疑問に思っていました。そこで、実家に戻り酒造りを見学することにしました。見学してからはアナログの世界の酒造りが楽しそうだと思い始め、兄たちに相談すると「やってみろ!」と背中を押されました。2013年に実家に戻り、広島の研究所や群馬での技術者会議で酒造りの学びを吸収していきました。「楽しみながら酒を造れ」という父の考えの下、自分が楽しめるお酒を造り続けています。


Q. 現在杜氏を務めている星野さんとの出会いは?


彼は私が入って1年後にやって来ました。彼の父が群馬出身で東京で飲食店を経営していたことから度々群馬へ訪れることもがあり、また食への親近感も抱いていたようです。彼はその中でも酒造りへの憧れを持ち始め、ワインの醸造を基にバイオの知識を学んでいました。ある日、会社に電話が掛かってきて、たまたま電話を取ったのが私だったんです。話を聞くと、「杜氏になりたい」と言い切る前向きな姿勢が感じられました。当時から酒造りのためなら何でもするぞ、という気迫があったように思います。この子なら絶対に良いものが造れると感じた私は、2015年には彼を杜氏に任せることにしました。その時に「彼が決めたことは口出ししない」ということを決めました。それは私が父から口出しされなかったことにやりやすさを感じていたことに因ります。手伝いはしますが、彼の経験や判断を奪わないことを徹底しています。このような取り組みが効いているのか、信頼感と緊張感を持ちながらメキメキと成長してくれていますね!


Q. 土田酒造の現在の製造方法に辿り着くまでどのような道のりがあったのでしょうか?


当時製造していた酒は普通酒に分類されるものでした。しかし、普通酒のマーケットは減少し地元の人口は減っていくばかりで、東京に持って行っても売れない、世界にも出せないという状況がみえてました。このままではダメになると思い、2015年に自分たちが何をすべきかを考え始めた結果、これからは純米だという結論に達しました。毎年5月に開催される品種鑑評会で金賞を獲得すれば、消費者の皆さんにも認めてもらえるだろうと。全国の酒屋から取り寄せた酒を星野と一緒に利き酒をする中で、秋田の「新政」には完全に心が奪われました。新政酒造が偶然にも栃木のイベントに登壇されたことをきっかけにコネクションを築き、2016年に星野が修行する機会を得ました。その修行後には綺麗な「山廃」を造ることができました。2017年には全量純米山廃を出荷することで今後の方向を定めました。同時に、酒造りにおいて添加物の考え方に疑問を抱いていたのでそこを追求するようになりました。

実は日本酒には国税庁の取り決めで、ラベルに表示する必要のない添加物が入っています。例えば、甘味を出す酵素剤や酸味を薄める除酸剤など。当時のうちの山廃の売上は全体の5%であったものの、自分たちが造りたいお酒だったことからこの5%にかけてみることにしました。というのも、何かを入れて恒常的に造るよりはもっと菌と対話する酒造りのほうが楽しい、次世代にも胸を張れる酒造りをする、マーケット的にも珍しかったことが理由です。


Q. 土田酒造が目指す味とはどのようなものでしょうか?


クラシックな造りながらもモダンな味を追求しています。それは現代人の食生活に合わせた酒造りに取り組んでいるためです。昔の味を維持したままでは次の世代が受け入れてくれないだろうとも思っています。現代古典のような位置づけ。日本酒はDJのようなもので、料理の良いところを盛り上げていく、ボリュームを造るような役割をしてくれます。そのため、料理を止めずに飲むことができ幸せな気分になれます。私はよく天ぷらや刺身と合わせることをお薦めしていません。それよりも、乳製品やお肉といった現代の食と合わせたもので飲むことを推奨しています。


Q. 土田酒造は昔ながらの製法を用いていますが、どのようにすれば現代の味になりますか?


ポイントは麹です。日本酒は酵母がアルコールを出す一方で、お米自体にはその餌となる糖分が含まれていません。麹菌の酵素がデンプンに働きかけて糖分を作り、それを酵母が食べてアルコールを出してくれます。そのため、麹を使って糖分を出します。また、麹次第でも出るデンプンの量が変わります。私たちは「力強い麹菌・製麹時間が極端に短い・総破精」をポイントの1つとしているため、たくさんの麹菌を振っています。それに使用する麹菌は力強く、デンプンを切る能力が驚くほど異なりますね。



Q. 昔の製造を踏襲することにどのような目標を掲げていらっしゃるのか気になります。


「その酒、土田っぽいよね」といったようなアイコン化することも目標の1つです。昔の食生活では蕎麦と日本酒の相性が良いと伝えられています。私たちのお酒もよく合うんです。それはお酒のアミノ酸で包み込むように造っているためで、私たちの酒造りではアミノ酸に注目しています。また、お米を削らないことも触れておきたいです。そうすることでお米本来の個性が際立ちます。私たちは食べるお米と同じ平均の1割程度しか削らないお酒づくりがほとんどを占めています。それに、蔵付き酵母という、酵母を添加しないで自然におりてくるのをまって造るものが6割をこえています。このように昔の造り方を踏襲することで、多様な酒造りの実現に繋がりました。


Q. 他の分野でもナチュラル志向が強まってきているように感じます。日本酒ではこれからはどのように変化を遂げていくとお考えですか?


割合は増えていくと思います。ただ、私たちは健康の部分はあまり意識せず、単純に美味しいものが造れるかどうかという点で自然な製造を取り入れています。昔の技術が偶然上手く造れることや、原材料の味を出したり、添加物を入れない造りが楽しいことに気が付きました。こういった取り組みは必ず次の世代も評価してくれると考えています。


Q. 研究醸造酒について、これはどういったものなんでしょうか?


前身が実験的に造ったものを試してみるイニシャルシリーズで、これはより研究要素を加えたものになっています。コンセプトは「世間がやっていなかったことをする」。例えば、飯米を使ってお酒を造る取り組みは「なぜ酒米を使わなければいけないのか」という疑問から始められたものです。さらには、日本のお米ではなくインディカ米のような中長粒米を用いたこともあります。慣習に疑問を持つことは特に大切だと感じていて、同時にどこかの蔵が提起しなければならないことだと捉えています。これは現在までに15種類が発売されていて、今年は16番目のデータを販売します。ちなみに、来年は5,6種が発売予定です。


Q. 最後に今後の土田酒造の在り方をお聞かせください。


菌との対話を増やすことです。以前から農薬を使わずに育った自然栽培米を用いた酒造りに挑戦しています。これが面白いと思った理由は菌との相性が良いことです。菌の魅力が引き出せるものとしても取り組み続けていきたいですね。そして、この酒造りが究極だと胸を張って言える状態に持っていきたいです。現在はまだ土台が何かわからない状態で、どの要素が合うのかを試していく過程にいます。私はこのことを「酒造道」(しゅぞうどう)と呼んでいます。極まらないとはわかっていながらも、職人として理想形に向かって進んでいきたいですね。


研究醸造酒や地球環境にやさしい製造に取り組む土田酒造。土田さんが楽しそうに話す姿からは、なぜか私たちまで一緒に研究しているような気分になりました。土田さんが度々仰る「慣習や常識を疑ってみる」ことは酒造り以外でも必要なこと。酒造りは勿論、日常生活においても考えるインタビューになりました。


【基本情報】

土田酒造


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